札幌地方裁判所 昭和42年(ワ)327号 判決 1968年2月01日
原告(反訴被告) 青木利男
右訴訟代理人弁護士 入江五郎
同 山本隼雄
被告(反訴原告) 亀田スズ
右訴訟代理人弁護士 林信一
主文
1、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)間で、札幌法務局所属公証人西田賢次郎作成第一〇八四五号債務承認支払契約公正証書に記載された昭和三一年三月二七日貸付による元本金一、〇〇〇、〇〇〇円、利息昭和三三年一〇月一五日より年一割五分、違約損害金弁済期昭和三三年一〇月末日の翌日から年三割との各債務が存在しないことを確認する。
2、被告(反訴原告)より原告(反訴被告)に対する前項記載の公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。
3、反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し、金一、五〇三、四六五円四〇銭およびその内金九〇〇、〇〇〇円に対する昭和三六年一二月二四日から支払ずみまで年三割の割合の金員を支払え。
4、反訴原告(被告)のその余の請求は棄却する。
5、訴訟費用は二分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。
6、本件につきなした強制執行停止決定を認可する。
7、この判決の第三項は、反訴原告(被告)において金八〇〇、〇〇〇円の担保をたてたとき、同六項は担保をたてないで仮に執行できる。
事実
第一申立
一 原告(反訴被告)の求める裁判
主文第一、二項同旨ならびに
「反訴原告(被告)の請求を棄却する。
訴訟費用は反訴原告(被告)の負担とする。」
との判決。
二 被告(反訴原告)の求める裁判
「原告(反訴被告)の請求はいずれもこれを棄却する。反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し、金九〇〇、〇〇〇円および金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年五月四日から昭和三六年一二月二三日まで、金九〇〇、〇〇〇円に対する昭和三六年一二月二四日から支払済みまで、各年三割の割合の金員を支払え。
訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。」
との判決ならびに金員支払を命じる部分につき仮執行の宣言。
第二原告(反訴被告、以下原告という)の本訴についての主張
一 原告と被告(反訴原告、以下被告という)を嘱託人とする札幌法務局所属公証人西田賢次郎作成の昭和三三年一〇月一五日付同公証人役場第一〇八四五号債務承認支払契約公正証書が存在する。
二 右公正証書には、「債務者原告同青木ミサは債権者被告に対し、昭和三三年一〇月一五日現在、昭和三一年三月二七日貸付による金一、〇〇〇、〇〇〇円の債務の存在することを確認し、右金員およびこれに対する昭和三三年一〇月一五日から支払期日まで年一割五分の割合の利息を同年同月末日に支払うこと、違約損害金は年三割とする」旨および右各債務につき強制執行受認文言の各記載がある。
三 しかし、右公正証書は次の理由により無効である。
(1) 原告は、被告から昭和三一年三月二七日に金一、〇〇〇、〇〇〇円を借受けた事実はなく、本件公正証書に表示された請求と一致する請求権は存在しない。仮に被告主張のような金員消費貸借が存在しても、それは本件公正証書に表示された請求とは同一性がない。
(2) 本件公正証書は、原告の代理人青木ミサが作成の嘱託をした旨記載されているが、同人は原告から代理権を与えられたことはなく、同女が公正証書作成につき提出した原告の委任状は同女の偽造によるものである。
(8) 本件公正証書は、被告が作成の嘱託をした旨記載されているが、真実は、訴外赤池ハナが被告と詐称して公証人役場に出頭しその作成嘱託をしたもので、公証人が本人を充分確めないで作成した点、本人の署名押印を欠く点で公正証書の要式性に欠け、作成手続に重大なかしがあり、無効である。
四 (1) 仮に本件公正証書が無効でないとしても、(イ)原告は、昭和三六年一二月から昭和三八年七月までの間に、被告から本件公正証書に基づき給料合計金一九五、〇〇〇円を差押えの上取立てられており、また、(ロ)訴外青木ミサは昭和三六年頃、数回にわたって金二一一、〇〇二円を被告に弁済した。
(2) 仮に右(ロ)の主張が認められないとしても、その頃、同女は被告に対し、金一一一、〇〇〇円を弁済し、被告は原告に対し金一〇〇、〇〇〇円の債務を免除した。
五 したがって、本件公正証書に基づく強制執行は許されないし、また、本件公正証書に記載の債務は存在しないので、主文第一、二項記載のとおりの判決を求める。
六 被告主張の四の事実は、全部否認する。
第三被告の本訴についての主張
一 原告主張の一の事実は認める。
二 同二の事実も認める。
三 同三の事実は争う。本件公正証書の作成嘱託は被告自身が行ったものである。
四 (1) 被告は、原告およびその妻青木ミサに対し左記のとおり金員を貸付けた。
貸付日
(昭和年月日)
貸付額
(円)
摘 要
1
31・9・28
五〇、〇〇〇
被告が訴外赤池ハナから
借受けて貸与したもの
2
10・5
一〇〇、〇〇〇
3
32・2・28
四〇、〇〇〇
4
3・20
一〇〇、〇〇〇
5
27
一〇〇、〇〇〇
6
19
三〇、〇〇〇
7
6・20
五〇、〇〇〇
8
10・13
一一〇、〇〇〇
9
12・20
一〇〇、〇〇〇
10
33・4・6
一〇〇、〇〇〇
11
5月頃
二〇〇、〇〇〇
12
33・5・26
五、二三〇
13
6・26
二一、五一五
14
7・26
三二、四〇〇
15
八四、〇〇〇
合計金 一、一二三、一四五円
(注) 15の金員は1、2、3、5および8の貸金合計四〇万円に対する昭和三三年二月から八月まで月三分の割合の利息を貸金としたもの。
(2) 原告は、その妻青木ミサ名義でたてていた無尽が掛返し不能となり多数の債権者から厳しく追及されるに至ったが、被告の債権を確保するため、昭和三三年一〇月一三日、原告夫婦は被告方を訪れ、被告に対し、同月中に右(1)の債務中金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する同月一三日から支払期日まで年一割五分の割合の利息を連帯して支払うこと、右期限後の遅延損害金は年三割とすること、右各債務につき強制執行受認文書ある公正証書を作成することを約した。よって右青木ミサが本人兼原告代理人として同月一五日本件公正証書の作成嘱託をしたものである。
(3) よって、仮に右(1)の金員消費貸借の借主が右青木ミサのみとしても、原告は被告に対し、昭和三三年一〇月一三日頃の右(2)の合意のとおり、右青木ミサの(1)の債務合計金一、一二三、一四五円中金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する右(2)のとおりの利息を同月末日限り支払う債務と年三割の遅延損害金の支払債務につき重畳的に債務引受をし、かつ、本件公正証書の作成を承諾したものである。
(4) (イ) 本件公正証書において、原告と被告は、昭和三三年一〇月一五日現在債務が金一、〇〇〇、〇〇〇円あることを承認し、その弁済期を同年一〇月末日、利息は同月一五日から年一割五分遅延損害金は年三割と合意したものである。そして、右承認債務を「昭和三三年一〇月一五日現在存在する昭和三一年三月二七日貸付による金一、〇〇〇、〇〇〇円の債権」として特定している。これは、前記(1)のとおりの各貸借を逐一日時金額等を挙示して特定することは煩雑に耐えないので、そのうち最も貸借の鮮明な昭和三二年三月二七日の貸金一、〇〇〇、〇〇〇円((1)の表中の5)の日時を表示したにすぎない。ただし、これを昭和三一年と誤って表示した。してみると、本件公正証書によって表示された債権が真実と一致しないとは言えない。
(ロ) また、本件公正証書作成以前に、すでに十数回にわたり、金員消費貸借の合意の下に計金一、一二三、一四五円の現金が現実に授受されており、このうち金一、〇〇〇、〇〇〇円について債務の存在を確認したのであるから、たとえ昭和三一年三月二七日に消費貸借が成立していなくとも、債務承認の基礎となった消費貸借の要物性に欠けるところはない。
(5) 仮に、本件公正証書に記載された債務の表示が前記(1)(2)の債権を表示しないとすれば、本件公正証書の作成により、原告と被告は、前記(1)の債権中金一、〇〇〇、〇〇〇円に限って、本件公正証書に記載の消費貸借の目的とする旨の準消費貸借の合意をしたものか、或いは、現在の債務額を右同額と確定し、その支払方法につき合意をしたもので、この合意につき本件公正証書を作成したものである。よって本件公正証書は真実と一致しないと言えない。
五 原告主張の四(1)(イ)の額の金員を被告が原告に対する給料債権の強制執行により受領した事実は認める。右は昭和三四年五月三日までの利息と遅延損害金に充当された。その余の同四の事実は争う。もっとも、被告は、昭和三六年一二月二三日、青木ミサから、金五〇、〇〇〇円の弁済を受け、これを訴外赤池ハナに支払い、よって四(1)9の貸金の弁済を受けたこととした(即ち、同貸金の残額五〇、〇〇〇円を免除した)ことはある。
六、前述のように、本件公正証書に表示された貸金中残存するのは、元金九〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和三四年五月四日から年三割の割合による遅延損害金である。よって、この範囲で債権の不存在の確認を求める原告の請求は理由がない。
第四被告の反訴についての主張
一 被告は原告に対し、第三 四(1)のとおり計一五回にわたり合計金一、一二三、一四五円を貸し付けた。
二 仮に右貸金が訴外青木ミサに対してなされたとしても原告は被告に対し、第三 四(3)のとおり右青木ミサの右債務のうち金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する利息および遅延損害金の支払債務につき重畳的債務引受をした。
三 原告は昭和三六年一二月二三日、第三 四(1)の表中の債務の履行として金五〇、〇〇〇円を弁済したので、被告は残額五〇、〇〇〇円を免除し、かつ、本件公正証書に基づく執行により昭和三四年五月三日までの利息および遅延損害金として金一九五、〇〇〇円を差押えの上取立てた。
よって、仮に本件公正証書の執行力がなく原告の本訴請求が認容されるときには、反訴として、右引受債務残額金九〇〇、〇〇〇円および元本全額金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年五月四日から右一部弁済の日までと、右金九〇〇、〇〇〇円に対する一部弁済の日の翌日から支払ずみまでとの約定利率による各遅延損害金の支払を求める。
四 原告の相殺および弁済又は免除の抗弁に対する認否は、第三 五のとおりであるからここにこれを引用する。
第五原告の反訴に対する主張
一 反訴請求原因は全部否認する。
二 仮に、被告主張事実が認められるとしても、原告は、第二原告の主張四(1)(イ)のとおりの本件公正証書に基づく不当執行により不当利得の返還請求権を有するから、昭和四二年七月六日の本件口頭弁論期日においてこれをもって対等額で相殺の意思表示をなした。また、原告は、第二原告の主張四(1)(ロ)および同(2)のとおり弁済し、債務免除を受けた。
第六立証≪省略≫
理由
一 原告と被告を嘱託人とする原告主張の公正証書が存在すること、右公正証書には「債務者原告同青木ミサは債権者被告に対し、昭和三三年一〇月一五日現在、昭和三一年三月二七日貸付による金一、〇〇〇、〇〇〇円の債務の存在することを承認し、右金員およびこれに対する昭和三三年一〇月一五日から支払ずみまで年一割五分の割合の利息を同年末日限り支払うこと、違約損害金は年三割とする」旨および右債務につき強制執行受諾文言の各記載があることは当事者間に争いがない。
二 そこで、本件公正証書に表示された請求権が実在するか否かの点につき判断する。
(1)(イ) ≪証拠省略≫によると、被告は原告の妻青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中1、2、3および8に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ロ) ≪証拠省略≫によると、被告は右青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中4に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ハ) ≪証拠省略≫によると、被告は右青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中6と7に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ニ) ≪証拠省略≫によると、被告は右青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中9に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ホ) ≪証拠省略≫によると、被告は右青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中10、12、13と14に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ヘ) ≪証拠省略≫によると、被告は右青木ミサに対し、事実欄第三 四(1)の表中11に記載のとおり金員を期限の定めなく貸し付けた事実が認められる。
(ト) ≪証拠省略≫によると、前記(イ)に認定の合計四〇万円の債権については遅くとも昭和三二年一〇月頃以降は月三分の割合の利息を支払う旨の合意が成立していたところ、被告と右青木ミサとの間で、昭和三三年八月頃、同年二月から同年八月までの右利息合計八四、〇〇〇円をもって消費貸借の目的とする旨の合意が成立した事実が認められる。
≪証拠判断省略≫
また、被告本人は第一回尋問期日に前記認定の各貸借の合意は青木ミサとしたがその借主は青木ミサと原告である旨供述するけれども、その根拠とするところはまことにあいまいで証人今村マサヱの供述も被告本人からの伝聞にすぎずいずれもたやすく信用できず、他に原告も前記認定の各貸借の借主であるとの被告主張を認めるに足る証拠はない。
(2) ≪証拠省略≫によると、青木ミサはかねてからいくつかの頼母子講の講元となっていたが、講員の未払掛金が多くこれを講元が代って支払う取極めがあったことなどのため、掛金の捻出に困り被告から前記(1)に認定のとおり金員を借受けたものであること、原告も青木ミサの主催する頼母子講の会合に度々出席したのみならず、右講と講員の多数を共通する昭和三二年一月四日初会の一万円掛の頼母子講の講元となったこと、青木ミサはその主張する講の未納掛金の代りに講員から譲受けた家屋を原告の承諾を受けてその名義に登記し、一方青木ミサが掛金の支払に困ったときは原告が他から借金してミサに用立てるなど、原告と青木ミサの夫婦は互に講の運営に協力していたこと、原告は、被告の青木ミサに対する前記(1)の債権が四〇万円を超えた昭和三三年三月二七日頃、被告の求めに応じ、青木ミサと連名で同額の金員借用証を被告に差入れたこと、青木ミサや原告は、借財に益々苦しむようになり、遂に昭和三三年八月右両名の主催する頼母子講がいずれも継続不能となったため支払不能となったこと、そこで、被告は青木ミサおよび原告に再三前記(1)の各債務の返済を迫ったところ、青木ミサはその代り同人や原告名義の建物四筆のうち被告の望む一筆を譲渡する旨申出たこと、しかし、その後右不動産が次々と他の債権者名義に登記され、原告名義の南六条西八丁目の建物も他の債権者の担保に入っている事実を知った被告は、青木ミサに違約を責めたところ、同人は右担保に入った建物を売却し代金中被担保債権を控除した残額を被告に支払う旨約し、更に、同年一〇月一三日頃、原告と青木ミサは被告に対し、前記(1)で認定の債務の支払に誠意を見せるため、金額一、〇〇〇、〇〇〇円の消費貸借債務の存在を確認し、かつこれについての利息は年一割五分、遅延損害金は年三割とし、右元利金を同月末日限り連帯して支払うことおよびこれらの債務につき強制執行を認諾する旨の公正証書を作成することを約したこと、右の合意に基づき、本件公正証書が作成されたのであるが、その際、請求権の表示を簡略にする便宜上、前記(1)に認定の各貸借中昭和三二年三月二七日に成立したものの貸借の目的金額を金一、〇〇〇、〇〇〇円に水増しして右同日に金一、〇〇〇、〇〇〇円の貸借が成立した旨の公正証書を作成する合意をしたが、これを錯誤により昭和三一年三月二七日と表示したため、本件公正証書が前記当事者間に争いがないとおりの記載となった事実が認められる。≪証拠判断省略≫
(3) 以上の認定事実からすると、昭和三三年一〇月一三日頃、被告と青木ミサ間で、前記(1)に認定の債務合計金一、一二三、一四五円のうち金一、〇〇〇、〇〇〇円について、弁済期は同月末日、本件公正証書作成の日以降の利息は年一割五分、遅延損害金は年三割とし、右利息の弁済期は右元本と同日とする旨の合意が成立し、これと併せて、原告と被告間に、原告は右青木ミサの債務につき重畳的に債務引受する旨の合意が成立したものと解される。
(4) ところで、公正証書に表示されている請求権がいかなる実体上の請求権を表示するかは、公正証書の社会的信用性を保持する必要上、原則として公正証書の記載自体から判断すべきものであって、当事者の意思等を参酌して決定すべきものではない。したがって、前記のとおりの本件公正証書の記載からは、昭和三一年三月二七日原告と被告間に成立した金一、〇〇〇、〇〇〇円の消費貸借に基づく請求が表示されていると解するほかはなく、社会通念上、前記(1)に認定の青木ミサと被告間の各消費貸借の内の一個ないしは数個に基づく、あるいは前記(3)に認定の原告と被告間に成立した契約に基づく請求のいずれかを表示したものとは解されない、してみれば、本件公正証書に表示の請求権と一致する実体上の請求権は不存在で、結局、本件公正証書に基づく強制執行は許されないと言うべきである。被告代理人は、現存債務額の確認と支払方法の確定の合意を本件公正証書にしたものであるから真実と一致する旨主張するが、現存債務額の特定が真実に従っていない以上、右主張は理由がない。
したがって、本件公正証書に表示された債務の不存在の確認と右公正証書に基づく強制執行の排除を求める原告の請求はいずれも理由がある。
三 原告が、青木ミサの債務を引受けて、被告に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年一〇月一五日以降同月末日まで年一割五分の割合の利息を同年一〇月末日限り支払うことおよび右期限後の遅延損害金は年三割とする旨を約したことは前記認定のとおりである。
(1) そこで、先ず原告の相殺の抗弁について判断するに、被告が本件公正証書に基づく強制執行により金一九五、〇〇〇円の弁済を受けた事実は当事者間に争いがないところ、前記認定のところからすると、右金員は法律上の原因なくして原告の財産に因り被告が受けた利益でその結果原告に損失を生じているから、被告は原告に対しこれを不当利得として返還すべきである。よって原告は被告に対しこれをもって本件反訴請求と対等額でする相殺は有効であるが、原告は相殺の充当の指定をしないので、法定充当すべきであるから、先ず弁済期の到来した貸付元本中金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和三三年一〇月一五日から同年同月三一日までの年一割五分の割合の利息金六、九八六円に充当し、次いで本件反訴により請求された右貸付元本に対する昭和三四年五月四日から同年一二月一八日まで二二八日の遅延損害金合計一八七、三七〇円四〇銭に充当し残余金六四三円六〇銭は翌一二月一九日の一日分の遅延損害金八二一円八〇銭の一部に充当する。
(2) 次に原告は、昭和三六年頃、数回に分けて合計二一一、〇〇二円を弁済した旨主張し、証人青木ミサは第二回供述において右主張に副う供述をするが、被告本人の各供述に照らしたやすく信用できない。
(3) 原告は、右主張が認められないとしても、金一一一、〇〇〇円を弁済し金一〇〇、〇〇〇円の債務免除を受けた旨主張するが、被告が本件反訴請求をするに及んで前記認定の金一、〇〇〇、〇〇〇円の債権から金一〇〇、〇〇〇円を控除する理由となっている昭和三六年一二月二三日の計一〇〇、〇〇〇円の弁済および債務免除以外に弁済ならびに債務免除があった事実を推測させる証拠は証人青木ミサの第二回供述以外になく、同供述は被告本人の第一、二回供述に照らすとたやすく信用できないから、被告の右主張も理由がない。
(4) そうすると、被告の原告に対する本件反訴中金九〇〇、〇〇〇円と、金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年一二月一九日一日分の年三割の割合の遅延損害金中金一七八円二〇銭と、右元本に対する右同日の翌日以降昭和三六年一二月二三日まで右同率の遅延損害金計金六〇三、二八七円二〇銭との総合計金一、五〇三、四六五円四〇銭および内金九〇〇、〇〇〇円に対する右同日の翌日以降支払ずみまで右同率の遅延損害金の各支払を求める被告の反訴請求は正当であるが、その余の部分は失当として棄却すべきである。
四 よって、原告の本訴請求はいずれも認容し、被告の反訴請求中正当な部分は認容しその余の部分は棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条仮執行宣言につき同法一九六条強制執行停止決定の認可につき同法五四八条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田殷稔)